幕末の薩長土の志士たちとは異なり、悪しきヒエラルキーを自ら壊滅してしまう見識と智慧と勇気を昭和戦前の軍人はほとんど全く持っていなかった。


日本のいちばん長い日』(岡本喜八監督)を観た。
昭和戦前の日本軍部の暴走のすさまじさ・御しにくさは、
日本のまともな政治家にとって最も頭の痛い問題であろう。


防衛大臣でも防衛庁長官でも
共に「衛相」とでも呼ぶことにして、元通り、防衛庁長官防衛庁に戻すべき、と思った。


それが、
暴走に次ぐ暴走、謀略に次ぐ謀略を武力をもって簡単に正当化できてしまう軍部
に対する戦後の日本人の反省であり、教訓だったことは明らかだ。


それにしても、昭和戦前の軍人たちのかなりの部分が、
なぜ、あそこまで、武器を悪用しまくってるだけの
ただの凶悪な犯罪者集団に成り下がってしまったのだろうか?


陸相でさえ、とても陸軍全体を御しきれていない。
陸相閣議で留守なのを悪用されて、
あべこべに近衛師団長が殺害され、偽の命令書が作成され執行されてしまう・・・


これは、単純に組織の体質が異常であったというだけではなく、
一人一人がおよそ人間としてまともではなかったという証拠であろう。


東京大空襲で、首都でさえ、一面焼け野原となったのは
5カ月も前の1945年3月10日である。


守るべきものは、既にほとんどなくなっているというのに、
一体何を守ろうとしていたのだろうか? 


軍人たちの理性なき意地だけなのではないだろうか? 
つまり、軍人たちを支配していた狂気だけではないだろうか?




伊藤博文が暗殺された頃から
日本の軍部はただの凶悪な謀略集団に堕してしまい、
そのまま狂気の亡国集団に成り果てていった
ということの一端が非常によく分かる秀逸な作品であった。


amazon:日本のいちばん長い日を観て、
今回私が非常に感謝の念を持ったのは、
よくぞこれを昭和戦前を直接知っている日本人たちで映像化しておいてくれた
という点である。


NHKBSなどでまた再放送されるかもしれない。


ともかく、現在の日本人俳優ではもはや出せないであろうような、あの昭和戦前的な狂気
および、それに抗することの困難さ・・・
が非常に良く描かれている極めて貴重な名作であることは確かである。